横浜地方裁判所 平成6年(行ウ)26号 判決
原告
岩下方光
被告
川崎市
右代表者市長
高橋清
右訴訟代理人弁護士
堀家嘉郎
右訴訟復代理人弁護士
石津廣司
事実及び理由
第三 争点に対する判断
一 所得税法は、退職所得を分離課税の対象としながら、同法六九条で総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額を計算する場合について、不動産所得の金額、事業所得の金額等の計算上生じた損失の金額があるときは、これを他の各種所得の金額から控除できるとしており、いわゆる損益通算を認めている。前記第二の一2における被告に対する所得税の還付は、右の規定による損益通算の結果に基づくものである。
二 そこで次に、住民税における退職所得の扱いについてみると、地方税法三二条一項(道府県民税の場合)及び同法三一三条一項(市町村民税の場合)は、それぞれ所得割の課税標準を、前年の所得について算定した総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額とする旨を規定し、同法三二条二項(道府県民税の場合)及び同法三一三条二項(市町村民税の場合)は、これらの算定に関し、所得税法二二条二項又は三項の計算の例によると規定しており、さらに同三項は、前記のとおり損益通算を定めた同法六九条の適用を認めている。
ところが、地方税法五〇条の二(道府県民税の場合)及び同法三二八条(市町村民税の場合)は、それぞれ、退職手当等(所得税法一九九条の規定によりその所得税を徴収して納付すべきもの)に係る所得割については、地方税法三二条及び同法三一三条の規定にかかわらず、当該退職手当等に係る所得を他の所得と区分して、現年分離課税がなされる旨を規定している。
このことは、地方税法五〇条の二及び同法三二八条が規定する退職手当等に係る所得に関しては、翌年度における総合課税制度の適用が排除され、所得税法六九条の損益通算の適用がないことを意味するのであり、結局、右退職手当等に係る住民税については、地方税法三二条二項、同法三一三条二項及び所得税法二二条三項の適用はないことになる。
また、地方税法三四条(道府県民税の場合)及び同法三一四条の二(市町村民税の場合)は、所得割に関する所得控除を規定するが、これも翌年度総合課税制度を前提とするものであるから、右のとおり現年分離課税のもとでは右控除がされないことは当然である。
この結果は、所得税に関する前記取扱いや所得税法二〇〇条の規定によりその所得税を徴収して納付すべき場合(すなわち源泉徴収されない場合)における住民税所得割との間に、原告が主張するような差異を生じさせることになるが、租税立法として、退職手当等(所得税法一九九条の規定によりその所得税を徴収して納付すべきもの)については現年分離課税とし、翌年度総合課税としなかった以上、やむを得ないというべきところ、原告が支給を受けた退職手当の金額と、これに基づく住民税の計算課程及び計算結果は別紙「税額計算書」記載のとおりであって、結局、その税額は前記第二の一1の金額に符号することが明らかである(弁論の全趣旨)。
したがって、本件退職手当に係る住民税については、損益通算ないし各種所得控除による過誤納金(不当利得)の発生する余地はない。
(裁判長裁判官 尾方滋 裁判官 秋武憲一 小河原寧)